君たちはどう生きるか感想記事

晴れ。なんか逆に涼しいみたいなとこある。こんばんは、白川のぞみです。

ジブリ最新作、『君たちはどう生きるか』が公開された。予告編を流さず、事前情報も全くなしという異例の"プロモーション"で展開されていたため、その趣向にのらない手はないとおもって急いで見てきた。本記事はその感想だが、当然ながらネタバレへの配慮はないため、ノンプロモーションの波に乗ったまま鑑賞したい人は、見終わってからこの記事を読んでくれたらと思う。以下、余白を挟んで書き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、本作は、多くの人が述べているように、難解な作品だった。話の入口と出口は理解できるが、その途中がトンデモというか、向こうが見せたい部分だけを説明のないままどんどん見せられてくる感じがある。本記事ではストーリーをさらうことはなく、俺がひっかかった部分をピックし、感想を付け加える方式で書こうと思う。

 

①マヒトは何故自分で傷をつけた?

マヒトは田舎に疎開してきたが、家でも学校でもうまくいってなかった。トーキョーモンとしていじめられたし、新しい母親のことも気に入らない。父親は自分を大事にしているし田舎の学校のことも軽んじているから、怪我でもしたら行かなくていいと言ってくれるだろう、あのムカつく同級生にもお灸を据えてくらるかもしれない、そんな幾つかの結果を目指して行った自傷だった。物語終盤、この傷は悪意の象徴として掲げられるが、マヒトというキャラクターが、子供ながら極めて戦略的で大人の動きが読める知性があることを示していた。

 

②ナツコはなぜ森に消えた?

マヒトがアオサギやカエルたちと邂逅したのち、ナツコは森へ消え、異世界に籠った。出産するのは現世でもできるはずだが、なぜ異世界に消えたのか。マヒトは森へ消えた彼女を探す道中、「行きたくて行ったわけじゃないと思う」と言っていた。マヒトに母として受け入れてもらえないストレスや、怪我を"させてしまった"という罪悪感に苛まれた結果、異世界の王(大おじさん)に呼ばれた。なにせナツコの子供もまた、異世界を継ぐ資格のある存在だから、大おじさんにしたらここで流産でもされたら敵わないわけだ。

 

アオサギはどういう存在なのか

アオサギはポスターに描かれるくらいの重要キャラで、マヒトを異世界へ導く案内人だった。異世界ではインコやペリカンが人語を話すが、現世に出てくるとただの鳥になってしまう。だがアオサギだけは現世でも人語を話し、人の姿になることも可能だった。彼の目的は大おじさんの後継として異世界を司る人材を見つけ、連れていくことだ。

 

④異世界とはなんなのか

大おじさんが"塔"を通してたどり着いた世界だが、これが"塔"の出現より前からあったものなのか、大おじさんが"塔"や"石"の力によって創世したものなのかは不明だ。だが、俺の感想としてはそもそも現世の鏡写しのような形で存在していた世界なんじゃないかと思う。「地獄」とか「海の世界」とか呼ばれるが、死後の世界だとするには、現世での命の素であるワラワラがいたりするし、現世との関係は一方通行ではなさそうだ。俺は、あそこは意志の世界なんじゃないかと思った。魂だけの世界というか、神の世界と言ってもいいかもしれない。エヴァンゲリオン・イマジナリーとか、ゴルゴダオブジェクトのような。大おじさんが持っている"石"は、言うなればロンギヌスとカシウスの槍。破壊と創造の手助けをする装置。

 

⑤"塔"とはなんだったのか

"塔"については、「宇宙から降ってきた」以外のことは何も語られない。俺は、今のところは異世界は現世の創世と共にあり続けた世界だと思っているから、"塔"は現世と異世界を繋ぐポータルだと思う。しかしそれが誰によって授けられたのかはわからない。神みたいな何か、あるいは、大おじさんより前に異世界の王だった人によってだろうか。

 

⑥"塔"が繋がっている世界について

"塔"は異世界と同時に、現世の様々な場所にも繋がっていた。マヒトの世界と、マヒトの母ヒサコの少女時代には繋がっていることが描かれたが、他にもたくさんのドアがあり、ドアの数だけつながる世界があるようだった。マヒトの世界では、ヒサコが子供の頃に行方不明になり、1年後に元気に帰ってきたという過去が明かされるが、この時のヒサコと異世界でマヒトが出会ったヒサコが同じ人物だとすると、マヒトが生まれる前に異世界は消滅していることになってしまうから、異世界は時間を超越した世界ということになる。

 

⑦後継者について

異世界が時間を超えて存在しているなら、別に後継はマヒトじゃなくてもよかったんじゃないかという気もする。ヒサコは異世界では火を操る巫女として活躍しており、強い力を持っていた。彼女に継がせてもよかったんじゃないか。なぜマヒトである必要があったのだろうか。全然わからないからかなり適当に言うが、ヒサコでは純粋すぎるから?マヒトは悪意をもつ少年だったことがキーな気がする。あるいはヒサコにはマヒトを産むという役割があるから王にはできなかった?異世界は時間を超越しているならば、ヒサコもまた時間を超越できた(=未来を見ることができた)のではないか。だから、自分がマヒトの母になることもわかっていた。

 

⑧結局なんの話だった?

本作はタイトル通り、生き方についての作品だったが、展開の難解さと裏腹に結論はシンプルだったように感じた。外界と遮断され、自分の思うままに支配できる世界を前に、マヒトは外界で生きることを選ぶ。「いずれ火の海になる世界だぞ」と大おじさんに問われるも「友達を見つけて生きていく」と返すマヒト。ほとんどシンエヴァである。他者がいる世界では、お互いに傷つけ合い、憎み合い、苦しみを避けられない。しかしそれは、他者からの愛や優しさと表裏であり、他者を退けることは、生きる喜びそのものを退けることになりかねない。マヒトは実母の死を乗り越え、新たな母を受け入れ、折り合いの悪い学校の連中とも共生しようと覚悟を決めた。まさに、「イマジナリーではなくリアリティーで立ち直った」わけだ。シンエヴァの他に、もう一つ思い出した作品がある。ドゥニ・ヴィルヌーブ監督の『メッセージ』という映画だ。『あなたの人生の物語』という小説が元ネタのSF映画で、受賞はしていないもののアカデミー賞で多くの部門にノミネートされた。割とネタバレ厳禁の映画なのにネタバレをしてしまうが、なんやかんやあって最終的に、主人公は未来を見通せる能力を身につけてしまう。そして主人公自身の、決して幸せとはいえない未来を見てしまうのだが、主人公はその未来を変えることなく、自分の人生を進む決意をする、という話だ。マヒトの母ヒサコは、少女ながら未来の息子と邂逅する。異世界崩壊に伴い自分の世界に帰ろうとするが、マヒトに止められる。ヒサコはマヒトを産んだ数年後、火事に巻き込まれて死んでしまうからだ。しかしヒサコはあっけらかんと言ってのける。「マヒトの母になるのが楽しみだ」と。自分が死ぬと知ってもなお実りのある人生ならば生きてみようという決意だ。ニーチェ的である。運命が決まっているものだとしてもなお自分の意志を先立たせて生きられる存在。しかもその人生は、内的な妄想の世界ではなく、他者の苦しみと温もりがある厳しい世界で営まれる。それが宮崎駿の『どう生きるか』への回答だ。

 

⑨残る謎

最後に、全然わかんなかったことを羅列していく。

ペリカンやインコはたくさんいたのにアオサギが一匹だけなのはなぜ?

・そもそもアオサギだけおっさんなのはなぜ?

異世界にある"墓"とは誰の墓なのか?異世界には生者も亡者もいるとキリコが話していたから、"墓"の主は亡者ではない何かである。

・亡者は魚を捌けない(殺さない)のはなぜ?生の世界に干渉できない?

異世界の海にいる船たちのほとんどは幻なのはなぜ?

・わらわらが"最近飛べてなかった"のはなぜ?

・ナツコが寝かされていた"産屋"はおそらく"墓"と同じものである。ナツコの奥に、"墓"と同じ石組みの建造物があった。

・おばあちゃんたちが異世界では人形なのはなぜ?もしかして人間ではなく精霊的なもの?

・キリコだけが異世界でも生者として存在していたのはなぜ?しかも人形とは別に。

アオサギがクチバシを射抜かれると力を失うのはなぜ?"風切りの七番"とは?

異世界を保つにはなぜ積み木が必要か?しかも13個とわざわざ個数まで言及したのはなぜ?

・そもそも"石"とはなにか?どこからきたのか?

 

おわりでーす