バットマン

あめ。さむめ。こんばんは、小西真奈美です。

 

俺はヒーロー映画が好きだ。ウルトラマンから始まり、仮面ライダー、ジャンパーソン、ガイファードシャンゼリオンなど特撮ヒーローをたくさん見て育った。マーベルやDCのヒーロー映画もたくさん見たし、今でもこれらを愛している。中でもバットマンは大好きだ。1995年公開の『バットマンリターンズ』が特に好きで、理由は実家に同作のスーファミのゲームがあったからだ。ファイナルファイト的な横スクロールアクションで、けっこう難易度は高かった。よくできたゲームだったと思う。このゲームをずーーーっとやってたので単純に思い入れが深く、以降バットマンの映画はずっと追いかけている。

ティムバートン監督で実写映画第一弾の『バットマン』から始まり、続編の『リターンズ』『フォーエバー』『バットマン&ロビン』の4作も見たし、クリストファーノーラン監督のダークナイト三部作も、ザックスナイダー監督のものも見た。さらには大名作ゲームの『アーカム』シリーズも全てプレイした。そんな俺だから、今回の『ザ・バットマン』を見るのは自然の流れなのである。

さて、当ブログでは基本的にネタバレへの配慮はしない。改めてあらすじを解説するようなことはしないが、見終わらないとわからない話をどんどんしていく可能性があるので気になる人は注意されたい。

 

 

予告編からして今作は期待していた。まずは若きブルースが描かれること。バットマンは伝統的に、人生経験をそれなりに積んできたおじさんとして描かれがちで、『バットマンビギンズ』ではバットマンとして活動したてであっても、社長業に悪人退治にとそつなくこなすスーパーぶりを発揮していた。そうではないバットマン像が見られるという期待があった。さらに楽しみだったのはアクション。予告編の段階で見られた、相手をコテンパンに、本当にコテンパンに叩き潰すという気概あふれた殴打シーンには、ザックスナイダー的な荒々しさがあった。

見てみた感想だが、結論、面白かった。3時間近い上映時間ながらしっかり楽しめたし、現代の、かつひとつの完成されたバットマンを見ることができた。出演者インタビューの中で、「今回のバットマンDCコミックスが、Detective-Comics(探偵漫画)の略であることを再認識できる出来だ」という話がされていた通り、探偵ものとしての毛色が強い。目的不明のまま犯罪を重ねる犯人、手掛かりを探して追うバットマン。ただし普通の探偵と違うのは、主人公がコウモリ男で、ときどき容赦のない暴力が出てくるというところだ。アクションは期待以上だった。格闘シークエンスはそう多くはないものの、一回一回のカロリーがかなり高い。あと、今回のバットマンは敵の攻撃もめちゃくちゃ喰らう。今までのヒーロー映画といえば、敵の攻撃は当たらず自分の攻撃は一撃必中だったが、今作はそういうわけにはいかない。敵に殴られ、鉄パイプで打たれ、弾丸までバチバチに被弾している。それらに1ミリも怯むことなく相手を叩き伏せる姿は狂気そのものである。特にいいのは、少し離れた距離で銃を向けられ、動くな!と脅されているのにも関わらず「は?なんだてめぇ」みたいな顔して手に持っていたバットをぶん投げるところが最高だ。いや少しは怯めよ。

今作のヴィランリドラー。このチョイスもいい。リドラーヴィランになるのは、1995年の『バットマンフォーエバー』以来27年ぶり、ダークナイト三部作では出てこなかったキャラだけに鮮度もある。ペンギンについても同じだ。ペンギンなんてマニアックすぎて誰も知らない気がするが、今作では当たり前みたいに出てくる(ちなみに最初に書いた『バットマンリターンズ』はペンギンがヴィランで、ゲーム版ではラスボスになっておりめちゃくちゃ強い)。リドラーはなぞなぞ好きの猟奇的犯罪者というキャラで、素っ頓狂なスーツを着たヤバいやつなのだが、今作では作品のテーマの一翼を担う重要なキャラクターになっている。

今作のリドラー

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俺の中のリドラー

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詳しいあらすじは割愛するが、リドラーという珍奇なヴィランを選んだことが結果的に今作をより現代的にしている。キャラ設定は完全にオリジナルになっており、上記の通り見た目も刷新されている。『ジョーカー』や『パラサイト』にも通じる、昨今の映画界のトレンドである社会的分断を表現する、なかなかメッセージ性の強いヴィランに仕上がっている。本人に全然戦闘能力がないところがまた不気味である。

さらに今作で印象的だったのは、ヒーローの人間化、言い換えると脱"神"である。ヒーローを人間化する営みはここのところ多くの映画で試みられてきた。直近では007の『ノータイムトゥダイ』がそう。敵にボロボロにされ、弱みを握られ、人間臭い葛藤を見せ、苦悩する。バットマンについても、ダークナイト三部作で似たような取り組みはされたように感じるが、今作はさらにそれを推し進めたように見えた。いくつかそのポイントをあげるが、まずは素顔のブルースのメイクだ。

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予告編でも登場する、この目の周りを黒くするメイクは、バットマンのマスクを被る際に目の周りを目立たなくするために伝統的に行われてきたメイクなのだが、こうして作品の中でメイクしていることを公にするのは初めてである。1992年の『バットマンリターンズ』では、バットマンがマスクを脱ぐシーンがあるが、その際はこの黒いメイクをせずにマスクを被っている。つまり、黒いメイクを目の周りにしているのは演出上の話であり、本来はブルースはメイクなどしていない、素顔にマスクを被っているというテイになっているわけだ。

↓メイクせずにマスクを被る、マイケル・キートン演じるバットマン

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これはダークナイト三部作でも同様で、クリスチャン・ベイル演じるブルースがマスクを砕かれても、彼の目の周りに黒いメイクはない。ところが今作は、積極的に黒いメイクを施したブルースを登場させる。こんなの言ってみればネタバラシというか、メタ的な演出、ヒーローになる裏側を見せる行為、端的に言えばダサいわけだ。ダサいといえば、今作はバットマンが一般人(しかもたくさんの)と同じ画面に映るシーンが多かった。ただでさえリアリティ志向、リドラーも手作りマスクで猟奇犯ぶってみせる中で、ガチガチのスーツに身を包んだバットマンが普通の警官などと同じ画面に映ると我々は「そのスーツださくない・・・?」と思う。どうみても変態だ。警官が訝しむのも無理はない。それに、バットスーツを着ていない時にはホームレスよろしくな小汚い服に身を包み、双眼鏡で女の子の着替えを覗いたりしているし、いつでも着替えられるように目の周りを黒くしながらコソコソ潜入したりしている。バットマンといえばマントを広げて空を滑空するのがお約束だが、今作はYouTubeでよく見るムササビスーツみたいなので、ほとんど自由落下に近い形で空を飛んでいる。そうなるといよいよマントをつけている意味もない。ダサい。胸のバットマークが取り外せるのもめちゃくちゃダサい。それを着るブルースも今作ならではの描かれ方をしている。ロバート・パティンソンakaパティやん演じるブルースは、バットマン史上もっとも鬱屈としており、歪んだ自意識に満ち満ちている。作中でいちども笑うことなく、斎藤一も真っ青なくらいの"悪・即・斬"を徹底している。青臭いまでの正義感と猪突猛進っぷり、髪を振り乱して敵を追いかける。会社の事業が傾いてもお構いなしだ。そもそも今作では、ウェイン社の社長としてのブルースはほぼ姿を見せないし、ウェイン社の中さえ映像はない。この社長ときたら、ロクに仕事もせずに悪人をぶん殴ることに精を出し、「悪が滅びれば金とかどうでもいい」みたいなことを言っている。自分のバットマン活動はすべて金に支えられているのを忘れているらしい。仲間が意識不明の重体から復活したかと思ったら即座に激詰めして必要な情報を吐かせようとするし、正体バレそうになったら露骨に目が泳ぐし、なんなんだこいつは、と思えてくる。しかし、そうでなければならない。バットマンとはそういう人物なのだと、逆説的に納得するのである。バットマンとは、防弾仕様のコウモリコスプレで悪人を殴り倒して社会を変えようと考えているただの金持ちである。慈善事業だって出来るのに、その金は全て武装と車に費やし、あんな変態じみた服装で、警官に白い目で見られながら街を守っている(という自負を抱えている)。そんな人間の頭がまともなわけがない。ここにきてようやくバットマンは、"超人的なヒーロー"から"変態暴力おじさん"として人間化された。悪ふざけみたいなスーツも、情け容赦ない暴力も、あのブルース・ウェインなら納得できる、彼ならそうするかも、という説得力がパティやんにはあった。頭のおかしい金持ちがキモいスーツを着て、棒で殴られても銃で撃たれても死なずに自分を追いかけてきたらめちゃくちゃ怖いと思う。そんなわけで、人間化することでかえってバットマンのキャラクター性を際立たせることができているような気がするのだ。

↓怖すぎる

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それでも、バットマン映画としてのお約束はきちんと果たしてくれる。そもそも、バットマンの世界に登場するお馴染みの人物については一切の説明なく登場するので、バットマン初見の人は果たしてわかっているのか?と不安になるくらいで、明らかにバットマンを知っている人に向けて作られている。上記シーンはお約束その①のバットモービルでのカーチェイスだが、今作のバットモービルはけっこう勿体ぶって登場しており、画面内でなんか作ってるような感じは匂わせつつも全体像は見えない。そしてここぞ!という時に満を持して登場するが、これがまためちゃくちゃ怖い。頭おかしいやつの頭おかしい車が追ってくる。やばい!と思う。また、今作のバットマンは秘密兵器があまりないのだが、必殺技のスモークペレットも意外な形で登場する。

そんなわけで、ティムバートン的なトンチキなバットマンと、リアリティある探偵ものとしてのバットマン、その両方がバランス良くかつこってりと楽しめる濃厚バットマン映画だった。また見たい。