平沢進『現象の花の秘密』

P-MODELデビュー30周年、ソロ活動20周年を記念したイベント「還弦主義」をはさみ、『点呼する惑星』以来3年ぶりとなる完全新作のアルバムが発売された。

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今年の6月に五反田で行われたライブPHONON2555では、発売前のこのアルバムから「華の影」、「脳動説」、「空転G」の三曲が披露された。その時に俺が感じたのは、なんだか盛り上がりに欠けるような気がする、あのカオティックで極彩色の世界観が見えなかった。

いま改めてアルバムを聴いてみると、平沢自身がこのアルバムにおいて「その質感と空間をして今までのヒラサワ作品に有りそうで無かったもの。」というものがなんとなく分かるような気がする(そう思いたい)というのがいちファンとしての感想。

2010年に行われたライブPHONON2553で、インタラが終わってるにも関わらず『点呼』の曲が8曲ほど演奏され、選曲が偏りすぎではないかとファンの間で少し話題になったことを記憶している。平沢は『点呼』がお気に入りなのか?と。

『点呼』は曲に先立ってある物語が構想されていた。曲全体の雰囲気は退廃的ながらもコミカルさがあり、それまでのオーケストラを背景に高らかに歌い上げる、荘厳、宗教的な世界観とはやや距離をとったものがあった。

今回のアルバム、『現象の花の秘密』はそのコミカルさ、胡散臭さがより色濃く感じられる。これまでのソロ作品よりも圧倒的に弦セクションの比重が高く、一方でピコピコ感は薄いし、過剰に打ち鳴らされるパーカッションやコーラスはやや控えめ、お約束のデストロイギターもなんだかトゲがとれて違った聴こえ方がしてくる。その代わり、一つの楽器が楽譜を縦横無尽に跳ね回り、危ういバランスの中で曲が進行していく。こうした楽曲は『点呼』の中(具体的には「聖馬蹄形惑星の大詐欺師」や「Astro-Ho!帰還」など)にチラと顔をのぞかせていたように思う。

収録曲はどれも、こちらが素直に期待するような展開をしてくれない。必ずどこかツボを外してくるし、曲自体がナニカの添え物のような趣さえある。一曲目の表題曲からして、なんとなく調子外れだ。60を前にして相変わらず伸びやかな平沢のボーカルと対照的にトラックの方はうねり、ねじれ、跳ねる。これでいいのか?あの精神がたたき起こされるようなパーカッションや天に突き刺さるような爽快感はないぞ?だが不思議と、10曲目の「空転G」まで聴き終えてみると、これでよかったような気もしてくる。なんだか狐につままれたようだ。

「空転G」はこのアルバムのリードトラックというか、平沢ソロのアルバムに一曲ははいってる、Aメロ→Bメロ→サビ で進んでいく分かりやすい奴だ。俺は平沢ソロのこういう曲が大好きで、もちろんこの曲もハイパー大好物なのだが、それでもバックには擦弦楽器だけで、あと一歩燃え上がってるという感じがしない。ずうっとダウナーなのだ。イントロの吹奏楽器もなんだかあべこべなメロディだし、絶えず、本当にこれでいいのか?という気分がついてまわる。しかし、なんだか悪くない気もしてくる!気がつけばリピートである。

こんな具合で、胡散臭いんだけど、なんだかこれはこれでアリなバランスな気がしてくるアルバム。なにより、久しぶりの新作というのが、ファンにはそれだけで嬉しいのであった。