差し歯デビューしました。

くもり。いい気温。長袖一枚がちょうど。こんばんは、堀北真希です。

 

遡ること20年前(もうそんなに経つのか)、小学生だった俺はひょんなきっかけで同級生と喧嘩、向こうのパンチがクリーンヒットしてしまい、右の前歯が折れかけるという情けない歴史がある。当時通っていた地元の歯医者さんは、この情けない子供が差し歯にならないよう、なんとか折れかけの歯を繋ぎ止め、そのおかげで俺は、今日まで自分の歯で暮らしてきたのである。

神奈川に暮らすようになって、親知らずを抜こうと思って訪れた歯医者さんで、この前歯について新たな処置がされた。最初に処置をしてからすでに十数年が経過、より綺麗に仕上げることができるからとのことでやってもらった。確かに綺麗になったのだのだが、前歯自体が薄くなっているような気がする。実際、研磨して薄くなっているのだという。まあ別に支障はないし、良かったと思っていた。ある夜、カチコチに凍った雪見だいふくに齧り付いたら、パキン!という音と共に出血、この前歯の根本にヒビが入ったのだった。件の歯医者に駆け込み、診てもらったが、割れたものはどうすることもできず、とりあえず問題の歯と左右の歯を接着剤で橋渡しして固定するという処置になった。

これが去年の10月、ほんとにちょうど1年前のことだった。あれからもう1年経ったのかという感慨さえあるが、普段の歯磨き等で少しずつ接着剤がはがれ、前歯はZARDのように揺れ動くようになっていった。一昨日の木曜、夜に天丼を食べていたのだが、食いしん坊が災いして、ご飯を頬張ったつもりが箸まで噛んでしまった。しかも運悪く問題の前歯で。その瞬間、前歯が大きくずれた感覚があり、取れた!とさえ思った。幸いにも歯抜けのまま天丼を食べることは避けられたが、いよいよ決断の時が来たと感じた。かれこれ20年、よく耐えてきてくれたが、既に根本は変色しており、いつ砕けてもおかしくないような状態だ。引導を渡してやらねばなるまい。

そして今日、三たび近所の歯医者でわけを話すと、先生は「これもうほっといても取れちゃうから、もう抜いちゃおう」といってさっさと処置を始めた。都会の(というか今時の?)歯医者はどこもこうなのか知らないが、何度も通うことなくその日でおおかたのケリをつけてくれるのが本当にありがたい。とりあえず、完全に抜かないといけないのか、少しでも自前の歯を残しておけるのかの確認をするためレントゲンを撮る。しかしどうも、どこまで割れてるのかわからない。ひとまず麻酔をかけ(痛い)、"ここまでは折れてるだろう"というところで折ってみたところ、「全部は抜かなくて良さそうだよ」とのこと。鏡でみたところ、しっかり生えた両隣の歯の間で、にんじんさんのように小さく生え残った前歯がある。分かりにくいため図示した。

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この残った小さな小さなにんじんさんだけが我が前歯であり、この上に人工の歯を被せるということであった。先生は淡々と話を進めてくれる。

「被せる歯は、保険適用のプラスチックと、保険適用外のセラミックがあります。プラスチックはすぐに黄ばんでくるので、見た目を思うならセラミックでしょう」「どっ、どれくらい料金の差がありますか?」「プラスチックは7000円、セラミックは11万くらいです」「ひえ〜〜〜プラスチックでお願いします」

こんなやり取りののち、型をとり、歯を作る準備が進められた。今日のところは仮歯(かりば)が装着され、本歯(ほんば)が入るのは2週間後とのことである。やれやれ、20年にもおよぶ右前歯との付き合いがまさに今日、根本的な解決を持って終焉を迎えた。これから俺は人工の歯を携えて生きていく。コンタクトレンズもしてない、髪を染めたこともピアスをしたこともない俺に撮って、天然物じゃないなにかを体に装着するのは初めての体験だ。これからはサイボーグ初心者として生きていく。よろしくプラスチック。