ライフとワークの狭間で

晴れ。昨日の雨が残る。こんばんは、石原さきです。

仕事が非常に厳しい。気温が下がりきらずシーズンものの動きが鈍いことと、円安の影響が止まることをしらず、値入に強烈な影響をきたしていることが理由だ。同じ数を売って儲けが減る場合、これを取り返すのはめちゃ大変である。計算は省くが、売上を100万プラスするのと、儲けを50万プラスするのとでは、後者の方が段違いで大変だ。だから、どこもかしこも、値上げとか内容量を減らすとかしないとならない。儲けは企業にとって生命線であり、かつ挽回が難しい要素だからだ。かといって値上げに消費者がついてこなければ売上が成り立たないから、消費者に理解してもらいながらかつ儲けも維持できるラインで値上げをしなければならない。値上げラッシュの昨今、原価高騰を丸ごと価格に転嫁してる企業はそんなにないんじゃないか。なぜといって、いま原材料高騰や円安の影響諸々で、原価はだいたい130%前後上がっている。儲けをそのままにしようと思ったら、150円のお菓子は195円で売らないとならないが、流石にそこまでの値上げはなされていない。では、原価高騰の残りの分は誰が補填しているのか?もちろん、小売が利益を削って飲むこともあるだろうが、その後ろにいるメーカーやら下請けやらが飲むことも多い。10:0ではなく5:5とか4:6とかいうこともあるだろう。しかし、企業として減益というのは受け入れ難い決算であるからして、儲けの予算は下がることなく設定されている。そうするとなにが起こるかというと、現場への強烈なプレッシャーである。

『原価が上がっている』『儲けは変わらずに出す』「両方」やらなくっちゃあならないってのが「小売」のつらいところだな。

俺は、できているだろうか、その覚悟が。はっきり言っていまから心が折れかけている。無理かもしれないと思っている。この円安は来年も続くと言われており、特に春からは、さらに、しかも一気に値上げが始まる。今までと同じ値段で買えるものはほとんどないと思った方がいい。しかし、弊社はあいも変わらず安い売価での提供を現場に求めている。価格をあげることで客が離れること、売上が下がることが怖いのだ。それなら儲けの予算を減らして、少ない儲けで回るようにすればいいのにそれもしたくないという。だから現場では、「それなりに安く作れるが、高い値段をつけても買ってもらえるような商品」という幻を追い続けているが、そんな物があればさっさと作っているので簡単には出てこない。仕方なく「これはこっそり値上げしちゃお」「これは儲けが減るけどそのまま売らないと・・・」みたいな金勘定を延々と行い、結果的にやっぱり儲けが減りそうだという現実に愕然とするわけである。

おっと、そこのあなた、もしかしてこう思わなかったか?「それならもう値上げをすればいい。原価が上がっており不当な値上げではなく、フェアな取引を行うための値上げなのだから、みんなで一気に値上げをすればいい」と。これには半分賛成、半分反対である。反対の理由から言うが、そのフェアな取引を支えるのがあなたの財布だと言うことを理解しているだろうか。値上げしても買う人がいなければ、値上げをした企業から潰れていく。「値上げは仕方ないよね、私もお金ないから買うの我慢するよ」という素朴で善良な、きわめて合理的な態度によって小売業は破綻するのだ。とはいえ賛成の部分もある。「みんなで一気に」の部分だ。世の中のものが一斉に、例外なく値上がりすれば、消費者はその中から選ばざるを得なくなる。なにも買わないということはできないのだから、そこからは各企業の商品や販促の勝負になる。企業間競争のうち、価格のハードルが一つ緩和されることになり、各企業も積極的に新商品を打ち出せるだろう。ところがこれがめちゃ難しい。俺が競合企業のバイヤーのところへ行って、「来年から値上げしませんか、、?」と言ったところで、向こうの企業がうっかり元の安い値段で売り出したら相手の一人勝ち、俺はバカを見る格好だ。少なくとも日本の企業に「みんなで幸せに」という感覚はない。自社さえ良ければいいのだ。キャッシュレス決済サービスが多くの企業から出されて、ポイントとかそういう付帯サービスもバラバラ、結果的に小売はその多岐に渡る対応に追われ、消費者もてんやわんやになっている現状を見たまえ。そんな我々が、一斉に値上げなんてできっこないのが現実である。

そんなわけで、今日も来年の仕入れを計画しては、儲けが合わないことを確認する作業を5回くらい繰り返した。なにをやってるのかと思う。いつまでこんなことをしているのかと思う。夏に転職活動をしていたときに、転職理由を聞かれるわけだが、いまの仕事だるすぎだからです、とは言えないので「誰のために働いているのはわからなくなったからだ」と答えていた。割とこれは本心だったと今も思う。商品と、それによって築かれる数字の山ばかり睨めっこしていると、なにかこう、浜辺で砂粒を数えているような気分になってくる。それでも、自分が気持ちをこめて作った商品がお客さんに喜ばれているとそれなりにやる気も出たが、いまは商品を作ることさえままならない状態だ。円安は止まらないし、ライセンス企業はゴネにゴネて商品化させてくれないし。

でも、じゃあどんな仕事ならやりたいのかと言われれば、何もやりたくない。ただ横になっていたい。俺はただただ、横になって寝ていたいだけなのだ。それのためにこんなに働いている。アホである。

先日、取引先と食事をしていたが、相手方の、関西出身、50過ぎの部長さんがこんな話をしていた。「ライフワークバランスなんてね、おかしな話なんですよ。ライフイズワークやないとね!だってそうでしょ、1週間のうち5日間は働いてる。仕事時間の方が長いんです。そこが楽しくないと、そこが人生じゃないともったいないでしょう!どうして切り分けるのか。切り分けたって始めから時間の量が違いまんねん」別にこの人はモーレツ会社員というわけではなく、むしろ残業一切せずさっさと帰るそうだ。でも、仕事が楽しい、前向きに働けている、それが人生を豊かにすると語っている。俺はその通りだと思った。余暇より仕事の方が長いんだからそちらを楽しくした方が楽しい時間が長い。正論である。そういう仕事に出会えることは幸せだと思う。辛いことも乗り越えられる。みんなはどうだ、どう生きていく?俺は、俺は、、、