久しぶりに歯医者にいった話


歯医者にいった。高校を卒業してからなので、かれこれ7年ぶりくらいにお世話になる。


きっかけは2週間ほど前の歯磨き中、突如、口内を加齢臭が襲う。

歯ブラシを探検させると、上側のもっとも左奥側がやけにしみる。虫歯治療をしているときに感じる鋭い痛み。
そこをシャコシャコしていると、どんどん広がる加齢臭。
意味が分からなかったので、指を突っ込んでその部位に触れてみると、どうも穴が空いているらしい。
しかもかなり大き目、がっつりと穴が空いている。


この場所は、中学のころに虫歯になった親知らずなのだけど、未だ成長途中ということで抜歯せずに詰め物しておいたのだった。

日常生活には支障がないし。まぁそんなこともあるか?と知らないふりをしていたのだが、
調べてみると、詰め物がとれたままにしておくと後々甚大な被害をうけるかもしれないという。

ウームとうなりながら過ごしていた。
俺は歯医者が大嫌いだ。地元で通っていた歯医者は、従業員に対してすごく怒る先生で、
患者にはとても優しいのだが、いつも怒声を聞きながら受ける診療は快いものではなかった。


どうも加齢臭が気になる。
発覚から1週間ほど経ったとき、俺はこの加齢臭が別のものに似ていることに気付いた。

生来お腹がゆるい俺はよくトイレにこもるが、その時の匂い・・・・すなわちウンコの匂いに酷似しているのだ。

こうなってくると俄然、急いで歯医者に行こうという気になる。
なにせ俺は口内にウンコを飼っているのだ。何を食べてもウンコと一緒に食べているのだし、
どう考えても患部が化膿かなにかしているはずだ。


意を決して近所の歯医者に予約する。いくつかの歯科医院があるが、HPがある程度整ってて外観も綺麗なところに電話した。


当日、問診票を書いて、診察室に通される。オープンなスペ―スにイスが二台、厚いガラスを隔てた奥にオペ室と銘打たれたスペースがひとつ。


椅子に座るとさっそく驚く。着席した患者が暇つぶしできるようにか、テレビが設置されている。
各椅子に1台ずつ。そこそこの大きさだ。これはすごい。
これからどんな痛い思いをするかと戦々恐々の俺の前で、テレビでは悠長に赤ちゃんハイハイレースなどしている。


衛生士さんがやってきて、ご挨拶、ピンサロにいって嬢と対面したときと似た緊張を覚える。
問診票の確認と、医院のポリシーなどの説明を受けたあと、さっそくプレイ 診療にうつる。

半透明の薄いゴム手袋をパチン!パチン!と装着するお姉さん、前立腺でも刺激してくれるのかと思い、やおら四つん這いになろうとしたが、
ライトがつけられ仰向けのまま椅子を倒される。
遠慮なく指を口内につっこみ、全体をまさぐった後に患部を触診、「あ〜ふんふん」などと勝手に納得して先生を呼びにいく。


なんという恍惚!ゴム手袋越しといえ、若い女性に口内を愛撫されてしまったのだ!!がぜんその気になってきた俺だったが、
美味しい思いはここまで、愛想のいいおじさんがやってくる。
がっかりしながら再び口を開ける。


先生「この歯はね、親知らずで、下の歯と噛んでないんです。どうします?」

俺「どうしますっていうと、つまり、どうすることができるんですか?」

先生「抜くのが一番はやいですね」

俺「それってすぐできるんですか?」

先生「いますぐやっちゃいますね」

俺「お願いします!」


急きょ抜歯することになった。
薄々わかっていたけれど、依然にいちど抜歯したときは、前々から準備の診療をおこない、
当日は麻酔に始まって歯を削り、歯茎を切りと大仕事だったあげく、三日くらい出血がとまらなかった思い出があるので憂鬱だ。

人と会う予定をいれておかなくてよかった。仕事始まるまでになんとか収まるといいな・・・・
そんな風に思いながら準備を待つ。

衛生士のお姉さんに話しかけられる。


お姉さん「朝ごはん食べてきました?」

俺「え?いや、食べてないですが・・・」

お姉さん「おなかすいてます?」

俺「えっwwww空いてないですけどwwwwなんでwwwあのwwwwンッフwwwww」

お姉さん「お腹が空いてるときに麻酔かけると脳貧血になったりするんですよ」

俺「アッ、ハイ、ダイジョブデス」


ガッカリである。てっきりお手製のおにぎりとかマドレーヌとか食べさせてくれるのかと思ったが、とんだ拍子抜けである。

だいたい、俺を誰だと思っているのか。
俺は抜くのは大好きだ。普段からよく抜いてる俺にとっては一回や二回の抜きなど、まさに朝飯前なのだ。見くびらないでほしい。


抜歯の前にレントゲンをとる。
これをくわえてくださいと渡されたマウスピースを噛み、鉛のエプロンをつけられる。

当然ながら、衛生士のお姉さんは俺より小柄だし、力もないだろう。重い鉛のエプロンをつけてくれるが、俺は一切手助けはしない。
ホストとゲストの関係をいたずらに乱したりするのが嫌いな俺は、もっぱら受けに徹しがちなのだ。
ちょっと重たいですよ〜などと、小太りの成人男性に対して言うことではないと思うが、そのような子供扱いが妙にうれしい。


レントゲンはバシャっと撮って終わり、というものではなく、器具が顔の周りをくるくると周り、頭部全体を撮影するような形で行われた。
器具が動いている最中、なぜか『エリーゼのために』がBGMでながれ、全く予期していなかった俺は笑いをこらえるのがかなり大変だった。


席に戻ると、衛生士さんがマウスを操作している。
なんと、先ほどのテレビに自分のレントゲン写真が表示されているではないか!
なんということか!このテレビは赤ちゃんハイハイレースを映すだけの機械ではなかった!
診療にしっかりと役立つスーパーハイテク装置だったのだ。


医学と科学の進歩に感心していると、椅子が倒され、いよいよ抜歯が始まる。


先生「まぁ、すぐ終わります、簡単なやつなんで」

俺「はぁ・・・」


コワイ!!!!

まずは麻酔だ。
記憶をさかのぼると、この麻酔というやつが一番つらい、チクリと痛いし、効果が出るまで時間もかかる。
前回やったときは効果が完全に出る前に抜歯されてたいへん痛かった。

しかし!今回はちがった。ほんの少し、本当にいち刹那でチクリは終わり、うがいをするときにはすでに感覚がなくなっていた。
俺の成長によるものなのか医学の進歩か、この先生の手腕なのかはわからないが、とにかく最大の難所をのりこえた。
あとは煮るなり焼くなり好きにしてくれ!何時間でもやるぞ!

再び椅子が倒され、器具を歯にあてる先生。


先生「じゃあ力いれますねー」


メリメリ・・・ミシミシ・・・・

衛生士さんが反対側から俺のアゴをおさえて、先生が力いっぱい歯を押し出す。
凄まじい力がかかるが、麻酔がきいてるので痛くない。

メリメリ・・・・・・・・・・・・・・


先生「はいうがいしてください。もう抜けましたからね」

えっ、早い!スゴイ!

うがいをして、患部に綿をつめて止血をしながら、衛生士さんの説明をきく。


お姉さん「ここを抜きました。下のここも抜いてもいいかもしれないですね」

俺「なるほど〜抜いてもいいですよね〜ウンウン、抜いてもね〜」

衛生士さんは抜くの好きですか?とまではさすがに聞かなかったけど、きっと好きものだと思う。


お姉さん「これが抜いた歯ですけど、持って帰ります?」

俺「いや、処分してください」

だいたい、抜いた後にそのものを見せられたりするのはあまり好きじゃないし、持って帰るなんて!
でも、好きものの女性は抜いた後のものを見せたがるので、そこはまぁ、仕方ない。


そんなこんなで、¥3000足らずでウンコ臭をする歯を抜くことができた。
あとは次回、簡単な掃除をして終わりというのだから簡単なものだ。

帰りに薬局で薬を買い、ついでにティッシュや飲み物を買って家に帰ったところで、出発したときからちょうど1時間。
麻酔がきれると痛みはあったが、そんなに苦痛なものでもなく、鼻歌まじりで週末を過ごしたのだった。