ビギナーのためのデニムジーンズの話

以前、初心者のためのメンズファッションとして、大風呂敷を広げて記事をかいた。
上から下までトータルで提案した、総論としての前回に続いて、各服種ごとの、各論的な記事も書いてみたいと思う。

まず断っておきたいのは、ファッションは多種多様であり、必ずしも決まった正解を持つわけではない。
その人その人で、ブランドの引き出しも違うし、コーディネートのルールも違う。
この記事では、あくまで俺の趣味と引き出しを前提にして書くので、いくつかのファッション誌を開いてみれば、また違った提案がなされているだろう。
これを読む人が選択するべきなのは、その人がピンときたものであり、この記事は引き出しの一つとして見てもらえばと思う。



さて、逃げを打ったところで、本題に入ろう。

そもそも「デニム」とは、インディゴ染めの綿を綾織りにした生地の名前であり、服そのものを指す言葉ではない。
一方で「ジーンズ」というのは、アメリカの作業着に端を発するカジュアルなズボンを指し、デニムでつくられていないものも存在する。

ジーンズの歴史は古く、1800年代後半、世界で最初のジーンズ(諸説あり)がつくられた。
この時の素材はコットンキャンバスであり、アメリカの炭鉱労働者のための作業着として重宝された。その後、素材はキャンバスからデニムへと変化していった。デニムの青い色はインディゴ(藍)によるものだが、これが採用されたのは虫除けであるとか怪我をした際の殺菌作用を企図したとか諸説ある。
もっとも、半世紀以上前のヴィンテージデニムでも既に本来の藍染めではなく、合成染料が用いられているため、マユツバなのだ。
日本産のジーンズで、あえて”藍染デニム”という呼称が使われることがあるが、それはこうした経緯による。


そんなジーンズだが、買った後の取扱いについては色んな人が色んなことを言っている。
よく言われるのは、「なるべく洗わないほうがいい」ということ。

ジーンズの最大の特徴として、服の経年変化、言ってしまえば「劣化」をメリットとして解釈できるという点がある。
色が落ち、生地が薄くなってもなお、それがかっこいいものとして審美性を高めるという特異な性質を持つ。
多くの(特に男性の)ジーンズ愛好家は、古いものでは50年代まで遡る、ヴィンテージジーンズに対する憧れがある。
ジーンズのかっこよさとはヴィンテージジーンズのそれであり、如何にしてこれを手に入れるかに腐心する文化が存在する。

当たり前のことだが、服を着用している際には、よく擦れる部位と、そうでもない部位があり、この摩擦の差によって、色の落ち方の濃淡がうまれる。
具体的には、膝、裾、シワとして隆起するモモの部分や膝の裏の部分と、それ以外の部分での色落ちの濃淡によって、ジーンズの格が決まる。
これとは別に、洗濯をして、水を通し、洗剤やほかの衣類との摩擦によって生じる色落ちがある。
洗濯により色落ちは、部位ごとの濃淡がなく、一様に色が薄くなっていく。このため、目指すべき濃淡が起こりにくく、イマイチな色落ちになるわけだ。
そのために、洗うにしても、他の衣類と擦れないように裏返しにしたり、色落ちにしにくい中性洗剤を使ったりという工夫が必要になる。


とはいえ、こうした色落ち神話も、言ってしまえばひとつの価値観にすぎない。あまり濃淡のない色落ちが好きな人もいるし、衛生的でないと考える人もいる。また、いい色落ちを作るからこそ、よく洗濯をし、太陽に当てることで染料や生地を日焼けさせた方がよいという意見もある。

大局的な話として、洗濯をせずに穿いた方が濃淡のある色落ちになりやすく、洗うとまんべんなく色が落ちる、ということがあるだけで、あとは好みやライフスタイルに応じて、好きなようにしたらいいと思う。



能書きはたれ終わったので、これからは、何を買ったらいいか分からないという君に、こんなのはどうかな、という提案をしようと思う。



http://www.e-levi.jp/shop/mens/501-%E3%83%AC%E3%82%AE%E3%83%A5%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%88%EF%BC%8F%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%A9%E3%83%BC%EF%BC%8FCONE+MILLS+12.5oz/item/view/shop_product_id/17172

リーバイス 501 ¥12960


前回の記事では、ウンチク抜きで使いやすいものを、ということで511を紹介したが、ジーンズの始祖というとこの501というモデルになる。
この501というモデルは非常に厄介な代物である。古着好きの中には、501というたった一つのモデルを追及し、語り尽くしたいという人がたくさんいる。先日、とある古着屋が主導となって、リーバイスの501だけを語りつくす書籍が発売された。なんと10000円もする。
閑話休題
501が誕生したのは1890年といわれている。かれこれ120年超続いている、ロングセラーにもほどがあるモデルなのだ。この長い歴史の中で、同じモデルでも形は幾たびも変更され、全く違うモデルにみえるようなものもある。
色落ちしたヴィンテージジーンズの一例↓


特に三村がはいてるものは501でまちがいなさそう。大竹のはでかすぎてちょっとわからないけど。
ヴィンテージジーンズってこういうのだよね、という代物だ。膝やモモの部分とそれ以外ので濃淡がある。
大竹が着用しているものは、モモ部分に、多くの線状の色落ちが見られる。これはヒゲと呼び、いい色落ちの要素。
それで、これも同じ、501というモデル↓

これは、ヨーロッパで生産されていた501、通称EU501。
アメリカ生産や、アジア生産のものとは異なる染料を用いており、独特の色落ちをする。
シルエットも、通常の501と同じサイズでも細身につくられており、スタイリッシュな印象。
これ以外でも、生産時期が10年違うと、シルエットはもちろん、縫っている糸の種類や縫い方、各部品がちがっており、
これがコレクター魂を刺激するというものだ。

ところで、今回紹介したのは、こうした長い歴史をもった501の、最新バージョン。
最新バージョンが一番いいか、というとこれまた微妙なんだけど、いつでもどこでも買いやすいものを呈示する意義はあると思う。

少し高いかな?と感じる人にはこういうものもある


http://item.rakuten.co.jp/ueno-yayoi/501-original/

リーバイス501オリジナル ¥7300

これはアメリカ企画の、本当に半分作業着として売られているような501。いわゆる「レギュラー501」と呼ばれるものだ。
最初に紹介したものよりも、インディゴの色合いが薄く、なんとなく簡素な印象をうける。
ページを見てもらうと、幅広いサイズ展開に驚くけれど、これが、作業着として浸透していることの証でもある。
「やっぱり、リーバイス501といったらこれでしょ!」という根強いファンもいる。


501に話がよりすぎた。他のブランドのものも紹介しよう。



http://edwin-ec.jp/disp/CSfGoodsPage_001.jsp?GOODS_NO=73051&q=101&brandCd=201&cateCd=001&dispNo=001001015&sort=02&type=&stock=&goods_sale_tp=&outlet_yn=&rowPerPage=

Lee 101z ¥12960

ジーンズの始祖であるリーバイスは、アメリカのネバダやカリフォルニアといった東部でシェアを拡大していった。一方で、アメリカ西部の開拓者たちをターゲットに展開したのが、このLeeというブランドだ。
ヴィンテージ市場では、リーバイスほどの人気はないものの、ジーンズやジャケットなどは高値で取引されており、コアなファンも多い。
ジェームス・ディーンやロバート・デニーロが映画で着用したこともあり、若者文化の色が強いブランド。
リーバイスでいう501が、Leeではこの101というモデル。リーバイスよりもストレート感のある、スマートな印象をうける。
細かい話だが、リーバイスとLeeでは、同じデニムでも生地の織り方が異なっており、これによって色落ちの雰囲気も変わる。

ズボンの縦方向に、雨が降るようにサーーーッと筋状に細かく色が落ちているのがわかるだろうか?
このような、縦方向の色落ちのことを「縦落ち」と呼ぶ。俺はあまり好きじゃないが、これが命!という人もいる。
Leeのジーンズはこの縦落ちが出やすく、また、リーバイスよりも気持ち滑らかな質感に思える。




http://www.apcjp.com/jpn/shop/apc/item/view/shop_product_id/16022/category_id/943/color_id/1069/category_list_id/943

アーペーセー プチスタンダード ¥19440

最初に書いたように、ジーンズのかっこよさとはヴィンテージジーンズのかっこよさのことだった。
多くのブランドがこれに肉薄しようとした時代があった。
そうではないジーンズもかっこいいということを示してくれたのがアーペーセーだ。
アーペーセーはフランスのブランドで、設立は1987年、デザイナーズブランド出身のジャン・トゥイトゥが立ち上げた。
デニム専門ブランドというわけではないが、メンズ、レディースの各シーズンのコレクションの他に、定番としてジーンズを展開している。
少し前に値上げがあり、ちょっとお高いジーンズになってしまったが、安心感のあるかっこよさだ。
アーペーセージーンズにはいくつかのモデルがある。

ストレートで、細さはあまり感じさせない、ニュースタンダード。
細身で、裾にかけて緩やかにシルエットが絞られていく、プチスタンダード。
腰・モモ周りにゆとりがあり、膝から下が強く絞られていく、プチニュースタンダード。
スキニーシルエットの、ニューキュア。

昔は、ぶっといシルエットのレスキューというのもあったけど、いつの間にか廃番になってしまった。

俺はこれまで、レスキュー、ニュースタンダードをはき、いまはプチニュースタンダードをはいている。
今回オススメするのは、細身のプチスタンダード。シルエットにクセがなく、合わせる靴やトップスを選ばない。
カジュアルでも綺麗目でも対応できる、いいモデルだと思う。
アーペーセーのデニムは、糊がしっかりとついた、未洗いの状態で売られており、生地のあまりの硬さに試着が難航するのだが、
サイズはなるだけぴったりとしたものを選んだほうがいい。試着の段階では「ボタンがしまらないのでは?」と思えるくらいがいいと思う。
というのも、ここのジーンズは、洗って糊を落とすと一気に生地が柔らかくなり、また伸びやすくなるため、試着の段階でゆとりのあるサイズを選ぶと、
後々、ベルトをいくら絞ってもゆるゆるになってしまうのだ(経験済み)。

余談だが、アーペーセージーンズを買うと、洗い方指南書のようなものが添付されている。
そこには、「一切洗わない」「ジーンズ用洗剤をつかう」「着用したまま海に飛び込む」などの洗濯方法が記されている。
先に書いたように、色落ちの濃淡は最初にどれだけ色落ちの差をつけられるかによる。ここのジーンズは特に、生地の硬さが大きくかわるため
一度柔らかくなると、なかなか色落ちさせるのが難しい。いい色落ちを目指すなら、なるべく最初は洗わずに、段ボールのような生地感を楽しもう。


色落ちの例。コントラストが非常に強く出ており、ヒゲと呼ばれる線状の色落ちもかなりくっきり出ている。
糊が付いた状態でしっかり履きこんだのだろう。タイトなサイズ選びも、こうした強い色落ちには効果的。
ちなみに俺の持ってるニュースタンダードの現状。↓


ヒゲは甘い。色落ちの濃淡はそこそこついている。割と頻繁に洗っては天日に干してるので、青みが強くなり、なんだか優しげ。
これ以上色落ちはあまりしなさそう。また機会があればお見せしたい。



http://item.rakuten.co.jp/smaclo/10008599/
http://zozo.jp/shop/bshop/goods/2083128/

オアスロウ 107 ¥18144

ヴィンテージジーンズを研究に研究を重ね、日本生産にこだわって良質な服を提案するオアスロウ。
この107というモデルは、裾に向かって細くなる形が特徴で、ストレートなジーンズよりも綺麗目に振ることができる。
足元もスニーカーはもちろん革靴との相性もよく、しっかり履きこめば色落ちも見込める。
最近はフリークスストアやBshopでも取扱いがあり、注目度の高いブランド。




http://shop.zabou.org/?pid=38936776
http://atvstore.jp/fs/atvstore/resolute/507Q7710

ゾルト 710 ¥23760

最後に紹介するのは、俺がさいきんハマってるブランド。
ヴィンテージジーンズのフォロワーとして、DENIME(ドゥニーム)という日本のブランドがある。
このブランドはこれとして、ジーンズ好きから大きな人気があるのだけど、このドゥニームを立ち上げた林 芳亨というおっさんが、
新たに立ち上げたのがこのリゾルト。
つくっているのは4種類のジーンズのみという頑固なブランドで、林本人は「リーバイス501の66モデルを参考にしている」とのこと。
66モデルというのは、1966年に生産された(実際は1971年くらいまで生産されてたらしいが)リーバイス501モデルのことで、普通の501よりも細身でかっこいいと評判。
この710というモデルは、66モデルよりかずいぶん細身で、シュっとしたシルエットになっている。
サイズの幅が広く、何種類ものウェスト、レングスサイズから選べる。これも、最初に紹介した、リーバイス501の幅広いサイズ展開を模してのこと。
さまぁ〜ずや、ダウンタウン浜田を見てもらえばわかるが、ヴィンテージ好きはやや大きめなジーンズをチョイスしがちである。
このリゾルトについては、ビッチビチのサイズで穿くことが推奨されており、裾はくるぶしにかかかどうか、くらいが良しとされている。
生地に強いこだわりを持ってつくっており、写真でわかるように、洗う内に、ジーンズ全体が強く右側へねじれてくる。

ゾルトのジーンズをはく者にはこの林本人のファンが多く、綺麗な色のシャツやカーディガンをまとい、足元は高級な革靴できめるスタイルが定着している。熱心なファンは、裾丈違いで何着も持ってるとか。俺も710を持っているが、かなり伸びてくるので、試着の段階では本当にギリギリのサイズを選ばないと、ゆるゆるになってしまいそうだ。
やや値が張る上に、丈の短さや裾幅の広さもあって、スタイリングに少し気を遣うけれど、少し慣れてくると、こんなに使えるジーンズはないという感覚がうまれてくる。今回イチオシのジーンズ。



今回のジーンズ特集は、ひとまずこんなところで幕引きとする。
「あそこのブランドがねーぞ!」とかいろいろあるかもしれないが、そう思う人はまた自分でブログ書くなりツイートするなりで
ビギナー各位へ教示したらいいと思う。
好き放題書いて楽しかったので、これを読んだ人の参考になれば一挙両得といった具合だ。